超伝導体内部の量子臨界現象を読み解く新たな解析手法を開発

―幅広い量子材料研究への応用に期待―

応用原子科学部門の横山淳教授(基礎自然科学野)が参画する研究グループの研究成果が、物理学分野を代表する国際学術誌 Physical Review Letters に掲載されました。

DOI: https://doi.org/10.1103/69mf-6r8f

量子臨界現象は、新しい超伝導や磁性などの創発現象が生まれる仕組みを理解する上で重要な鍵と考えられており、次世代の量子材料開発にも深く関わる基礎物理現象として世界的に注目されています。しかし、その研究に広く利用されている元素置換法では、置換原子の分布が完全には均一にならないため、本来観測したい物性変化が平均化され、量子臨界現象の本質的な振る舞いを捉えることが難しいという課題がありました。

本研究では、試料全体の平均組成ではなく、物質自身が示す局所的な超伝導転移温度(Tc)に着目しました。研究グループは、走査型SQUID顕微鏡を用いてミクロンスケールで超伝導特性を測定し、局所Tcを電子状態の違いを反映する「自然な物差し」として活用する新たな解析手法を開発しました。その結果、元素置換による不均一性の影響を大幅に低減し、これまで見えにくかった超伝導状態内部の量子臨界的な振る舞いを高い精度で抽出することに成功しました。

今回の成果の意義は、特定の物質における新現象の発見だけではありません。従来は避けることのできない制約と考えられてきた元素置換による不均一性を、物質自身が持つ情報を利用することで克服し、量子臨界現象の本質に迫る新たな研究アプローチを示した点にあります。今後は超伝導体のみならず、磁性体や強相関電子系をはじめとする幅広い量子材料研究への展開が期待されており、新たな量子機能材料の理解や開発につながることが期待されます。

本研究は、井口雄介氏(研究当時:スタンフォード大学)、井能楓氏、小泉遼介氏(茨城大学大学院理工学研究科)、および横山淳教授による共同研究として実施されました。

論文情報

Y. Iguchi, K. Inoh, R. Koizumi, and M. Yokoyama
"Magnetic Quantum Criticality inside the Superconducting State Revealed by Penetration Depth Scaling with Local Tc "
Physical Review Letters, Vol. 137, 096001 (2026).

関連リンク

図:研究概念図

走査型SQUID顕微鏡を用いてミクロンスケールで試料表面の局所的な超伝導特性を測定し、それぞれの場所で得られた超伝導転移温度(Tc)を「自然な物差し」として利用することで、元素置換による不均一性に隠れていた量子臨界現象をより忠実に捉えることを可能にした。本手法は、量子臨界現象の理解を深めるとともに、さまざまな量子材料への応用が期待される。