超小型蓄積リングの新しいビーム入射技術を世界で初めて実証

次世代ミュオン精密計測への重要な一歩

応用原子科学部門の飯沼裕美准教授(基礎自然科学野)と東京大学理学系研究科博士課程の松下凌大氏、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総合研究大学院大学からなる研究グループは、超小型蓄積リングにおいて「三次元らせん入射(Three-Dimensional Spiral Injection)」方式によるビーム蓄積を世界で初めて実証しました。本成果は、Physical Review Letters(PRL) に掲載されました。

(論文DOI: https://doi.org/10.1103/8nxx-srgz)

蓄積リングは加速器科学を支える基盤装置ですが、ミュオンのような寿命の短い粒子を高精度で測定するためには装置の超小型化が求められます。一方で、リングが小型化すると粒子の周回周期が数ナノ秒程度となり、従来のビーム入射技術では対応が難しいという課題がありました。

飯沼准教授らが提案・開発を進めてきた三次元らせん入射方式は、ビームを三次元的ならせん軌道に沿ってリング内へ導入し、効率よく蓄積する独創的な手法です。今回研究グループは、周回周期4.7ナノ秒の超小型リングを用いた電子ビーム実験により、この方式が実際に機能することを世界で初めて実証しました。測定では200周回以上に相当するビーム蓄積を確認し、シミュレーションとの高い一致も示されました。

本成果は、J-PARCで進められているミュオンg−2/EDM実験をはじめ、素粒子の性質を高精度に測定する次世代ミュオン精密計測の重要な基盤技術であるとともに、ミュオンの広い分野への応用も期待される精密計測の基盤技術です。

RECASにおける研究と人材育成の成果

茨城大学では、理工学研究科量子線科学専攻およびJ-PARCをはじめとする国内外の研究機関と連動して、原子科学研究教育センター(RECAS)において最先端の原子科学・量子線利用分野の先端的研究教育を推進しています。本研究の中心的な担い手の一人である松下凌大氏は東京大学大学院の学生ですが、茨城大学の特別研究生として受け入れられ、飯沼准教授の指導のもとで研究を推進しました。所属機関の枠を超えて研究者・学生が集い、最先端の研究課題に挑戦するRECASの環境の中で、理論検討から実験、データ解析、論文執筆までを経験し、本研究成果の取りまとめに大きく貢献しました。本成果はこの原子科学・量子線利用分野の研究教育力を国際的に示す成果です。

論文情報

Title: First Experimental Demonstration of Beam Storage by a Three-Dimensional Spiral Injection Scheme for Ultracompact Storage Rings
Journal: Physical Review Letters 137, 025002 (2026)
Published: 2026年7月10日

研究内容の詳細は、以下のプレスリリースおよび茨城大学ニュース・イベントをご参照ください。
https://www.ibaraki.ac.jp/news/uploads/2026/07/202607161000.pdf

超小型蓄積リングに荷電粒子ビームを入射する「3次元らせん入射手法」を開発 世界で初めて実験的に実証 次世代加速器技術への展開目指す|茨城大学

図1三次元らせん入射方式の装置概念図