カイラル結晶構造の磁性体に潜む「渦巻き磁気構造」を解明
— Nd₃Ir₄Sn₁₃における磁気トロイダル秩序の発見 —
応用原子科学部門の岩佐和晃教授、桑原慶太郎教授(基礎自然科学野)、星川晃範准教授(応用理工学野)の研究グループによる共同研究成果が、Journal of the Physical Society of Japan に掲載されました。
(論文 DOI: https://doi.org/10.7566/JPSJ.95.044711)
磁性は、原子一つひとつが持つ微小な磁石である磁気モーメントに由来します。結晶中では、これらの磁気モーメントが特定の規則に従って並びますが、その空間配置パターンは実に多様です。こうした磁気モーメントの並び方は、電気伝導や熱容量などの物質の性質に大きな影響を及ぼすことが知られており、磁気構造を詳しく理解することは、新しい物質機能を引き出すための重要な手がかりとなります。
本研究では、反強磁性体 Nd₃Ir₄Sn₁₃ を対象に、結晶構造の単位胞の中に48個も存在するNdイオンの位置とその磁気モーメント(図中の赤矢印)が、どのような規則で配列しているのかを調べました。そのために、中性子と放射光X線という二つの量子ビームを用い、精密な回折実験を行い、カイラル対称性をもつ結晶中に現れる磁気構造をこれまでになく詳細に明らかにしました。
その結果、磁気構造の中に、三角格子上で磁気モーメントが渦を巻くように配列した特徴的な成分が含まれていることが分かりました。この渦状の磁気構造は「磁気トロイダル双極子」と呼ばれるもので、図中では渦の向きを示す紫色の矢印として表されています。
この磁気トロイダル双極子は、電荷や磁気の分布をより一般的に記述する「拡張多極子理論」を用いて初めて捉えられたものです。拡張多極子の視点を導入することで、従来の磁性の概念では見落とされがちだった隠れた秩序を系統的に解析できるようになります。本研究の成果からは、たとえば電流を流すことで磁化が誘起される現象など、磁気と電気が結びついた新しい物性(交差相関現象)の発現が期待されます。
本研究は、茨城大学の学生が主体となって遂行されました(写真)。実験には、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の放射光実験施設に設置されたX線回折装置 BL-4C、BL-8A、日本原子力研究開発機構(JAEA)の大強度陽子加速器施設J-PARC 物質・生命科学実験施設の中性子回折装置 iMATERIA(BL20)、ならびにJAEA研究用原子炉JRR-3に設置され、応用原子科学部門が東京大学物性研究所との協定に基づいて運営している中性子散乱装置 HQR(T1-1)が用いられました。



